Katahane:Trial sr016.txt
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{- アンジ「(――あ、家に着いたんだ……)」 -}
<0001> アンジ「(――あ、家に着いたんだ……)」
{- バイトを終えたあたしは、気付いたら家の前に立っていた。\n今日は朝一番で二次選考の合格発表を見たあとから、ところどころ記憶が飛んでいる。\nバイトで肉を叩き過ぎたり、接客があやふやになったり。 -}
<0002> バイトを終えたあたしは、気付いたら家の前に立っていた。\n今日は朝一番で二次選考の合格発表を見たあとから、ところどころ記憶が飛んでいる。\nバイトで肉を叩き過ぎたり、接客があやふやになったり。
{- アンジ「お会計を間違えてなかっただけ、上出来?」 -}
<0003> アンジ「お会計を間違えてなかっただけ、上出来?」
{- あたしは自分の情けない慰めにため息をつき、空を見上げた。 -}
<0004> あたしは自分の情けない慰めにため息をつき、空を見上げた。
{- アンジ「……仕方ないわ。こうなる可能性もあってのオーディション」 -}
<0005> アンジ「……仕方ないわ。こうなる可能性もあってのオーディション」
{- 受かる人が居れば、落ちる人も居る。\n今回のあたしは、その後者側に回っただけのこと。\n審査員の先生のひとりからもらったメモには、『あとは実践と場数次第』と書かれていたけど―― -}
<0006> 受かる人が居れば、落ちる人も居る。\n今回のあたしは、その後者側に回っただけのこと。\n審査員の先生のひとりからもらったメモには、『あとは実践と場数次第』と書かれていたけど――
{- アンジ「(――それを実行するには、舞台に立つしかないと思うのよ)」 -}
<0007> アンジ「(――それを実行するには、舞台に立つしかないと思うのよ)」
{- 二次選考で落とされたら、そんな経験を積むチャンスはない。 -}
<0008> 二次選考で落とされたら、そんな経験を積むチャンスはない。
{- アンジ「……要するに『スクールに通い続けろ』ってわけね」 -}
<0009> アンジ「……要するに『スクールに通い続けろ』ってわけね」
{- 以前、数ヶ月だけ在籍したスクールで色々なことを学んだ。\n確かに、身につくものはたくさんあると思う。\nでも、それを継続するためには、先立つモノが求められる。 -}
<0010> 以前、数ヶ月だけ在籍したスクールで色々なことを学んだ。\n確かに、身につくものはたくさんあると思う。\nでも、それを継続するためには、先立つモノが求められる。
{- アンジ「……バイトの時間増やして、頑張るしかないのかな」 -}
<0011> アンジ「……バイトの時間増やして、頑張るしかないのかな」
{- リュリ「どうしたの、アン? 家の前でボーッとしちゃって」 -}
<0012> リュリ「どうしたの、アン? 家の前でボーッとしちゃって」
{- アンジ「リュリュ……」 -}
<0013> アンジ「リュリュ……」
{- 気付けばすぐそばにリュリュの姿が。 -}
<0014> 気付けばすぐそばにリュリュの姿が。
{- アンジ「いつからそこに?」 -}
<0015> アンジ「いつからそこに?」
{- リュリ「いまだよ、来たのは。二階の窓からアンの姿が見えたから、出迎えに」 -}
<0016> リュリ「いまだよ、来たのは。二階の窓からアンの姿が見えたから、出迎えに」
{- そこでリュリュは、あたしのつま先から頭のてっぺんを眺め、 -}
<0017> そこでリュリュは、あたしのつま先から頭のてっぺんを眺め、
{- リュリ「何だか、いつものアンらしくないけど……」と続く言葉をにごした。 -}
<0018> リュリ「何だか、いつものアンらしくないけど……」と続く言葉をにごした。
{- アンジ「理由は簡単よ。選考、落ちちゃったから」 -}
<0019> アンジ「理由は簡単よ。選考、落ちちゃったから」
{- 隠していても仕方ないことだから、自分から告白してしまう。\n特にリュリュには、何回も台本の読み合わせを手伝ってもらっていたから、報告する義務がある。 -}
<0020> 隠していても仕方ないことだから、自分から告白してしまう。\n特にリュリュには、何回も台本の読み合わせを手伝ってもらっていたから、報告する義務がある。
{- リュリ「そうか、残念だったね。ぼくには『次、頑張ってね』しか言えないけど――」 -}
<0021> リュリ「そうか、残念だったね。ぼくには『次、頑張ってね』しか言えないけど――」
{- リュリ「あ、台本読むぐらいならできるから、その……頑張って」 -}
<0022> リュリ「あ、台本読むぐらいならできるから、その……頑張って」
{- 口下手なリュリュが、気を遣って励ましてくれる。\nあたしには、それだけで充分だった。 -}
<0023> 口下手なリュリュが、気を遣って励ましてくれる。\nあたしには、それだけで充分だった。
{- アンジ「……ありがと。今度は、無理に悪役とかやらせないからね」 -}
<0024> アンジ「……ありがと。今度は、無理に悪役とかやらせないからね」
{- リュリ「う、うん。そうしてもらえると、助かるかな。えへへっ」 -}
<0025> リュリ「う、うん。そうしてもらえると、助かるかな。えへへっ」
{- ふたりで笑い、少し気が晴れて余裕ができたあたしは、ふと家の中から聞こえてくる声に気付く。 -}
<0026> ふたりで笑い、少し気が晴れて余裕ができたあたしは、ふと家の中から聞こえてくる声に気付く。
{- アンジ「ねぇ。今日はずいぶんと賑やかみたいだけど……」 -}
<0027> アンジ「ねぇ。今日はずいぶんと賑やかみたいだけど……」
{- もしかして、あたしが『選考』に受かった仮定でお祝いの準備がされてるとか? -}
<0028> もしかして、あたしが『選考』に受かった仮定でお祝いの準備がされてるとか?
{- リュリ「あぁ、それはね。お客さんが来てるんだよ」 -}
<0029> リュリ「あぁ、それはね。お客さんが来てるんだよ」
{- アンジ「お客さん? お母さんの?」 -}
<0030> アンジ「お客さん? お母さんの?」
{- リュリ「うん。そう……なるのかな? 面白い団体さんで」 -}
<0031> リュリ「うん。そう……なるのかな? 面白い団体さんで」
{- アンジ「団体さん?」それも、面白い? -}
<0032> アンジ「団体さん?」それも、面白い?
{- たまにお母さんを訪ねてくる人は居るけど、精々ひとりかふたりがいいところ。\nもし団体がやってくるなら、事前に知らせてくれていたと思うのだが―― -}
<0033> たまにお母さんを訪ねてくる人は居るけど、精々ひとりかふたりがいいところ。\nもし団体がやってくるなら、事前に知らせてくれていたと思うのだが――
{- ココ「んぁー?」 -}
<0034> ココ「んぁー?」
{- アンジ「……は、はい?」 -}
<0035> アンジ「……は、はい?」
{- 突然下から聞こえてきた声に、あたしは思わず一歩下がってしまう。 -}
<0036> 突然下から聞こえてきた声に、あたしは思わず一歩下がってしまう。
{- アンジ「あなた、誰?」 -}
<0037> アンジ「あなた、誰?」
{- 一瞬、おもちゃ屋さんの等身大人形が話しかけてきたのかと思ってビックリしたが、よくよく見れば…… -}
<0038> 一瞬、おもちゃ屋さんの等身大人形が話しかけてきたのかと思ってビックリしたが、よくよく見れば……
{- シュエスタ -}
<0039> シュエスタ
{- 人形だと判る。 -}
<0040> 人形だと判る。
{- ココ「コーコ。ボク、コーコ」 -}
<0041> ココ「コーコ。ボク、コーコ」
{- アンジ「コーコ?」 -}
<0042> アンジ「コーコ?」
{- リュリ「あのね、アン。この子が、団体さんのうちのひとり。名前はココ」 -}
<0043> リュリ「あのね、アン。この子が、団体さんのうちのひとり。名前はココ」
{- ココ「こんにち、はー」 -}
<0044> ココ「こんにち、はー」
{- アンジ「……こ、こんにちは」 -}
<0045> アンジ「……こ、こんにちは」
{- あたしの半分ぐらいの背丈しかない子に倣い、お辞儀を返す。\n -}
<0046> あたしの半分ぐらいの背丈しかない子に倣い、お辞儀を返す。\n
{- これまで数回 -}
<0047> これまで数回
{- シュエスタ -}
<0048> シュエスタ
{- 人形を見かけたことがあるけど、こんなタイプは初めてだった。 -}
<0049> 人形を見かけたことがあるけど、こんなタイプは初めてだった。
{- アンジ「……リュリュ。団体さんって、みんな -}
<0050> アンジ「……リュリュ。団体さんって、みんな
{- シュエスタ -}
<0051> シュエスタ
{- 人形なの?」 -}
<0052> 人形なの?」
{- リュリ「シュエスタって……あぁ、 -}
<0053> リュリ「シュエスタって……あぁ、
{- シスター -}
<0054> シスター
{- 人形のこと?」 -}
<0055> 人形のこと?」
{- アンジ「あ、うん」 -}
<0056> アンジ「あ、うん」
{- 演劇関係者は、みな -}
<0057> 演劇関係者は、みな
{- シュエスタ -}
<0058> シュエスタ
{- 人形と呼ぶ習わしがあったので、つい。\n -}
<0059> 人形と呼ぶ習わしがあったので、つい。\n
{- リュリュが相手だから、一般的な呼び名―― -}
<0060> リュリュが相手だから、一般的な呼び名――
{- シスター -}
<0061> シスター
{- 人形で尋ねれば良かった。 -}
<0062> 人形で尋ねれば良かった。
{- リュリ「 -}
<0063> リュリ「
{- シスター -}
<0064> シスター
{- 人形は、あともうひとりだけだよ。残りは男の子ふたりと、女の子がひとり」 -}
<0065> 人形は、あともうひとりだけだよ。残りは男の子ふたりと、女の子がひとり」
{- アンジ「……ということは、全部で5人?」 -}
<0066> アンジ「……ということは、全部で5人?」
{- リュリ「いち、に、さん……そうだね、5人。みんなお客さんのはずなんだけど、家事の手伝いさせられてて」 -}
<0067> リュリ「いち、に、さん……そうだね、5人。みんなお客さんのはずなんだけど、家事の手伝いさせられてて」
{- アンジ「え? お母さんがさせているの?」 -}
<0068> アンジ「え? お母さんがさせているの?」
{- リュリ「みたいだよ。何でも、宿泊費代わりだって」 -}
<0069> リュリ「みたいだよ。何でも、宿泊費代わりだって」
{- ……一体、どんな人たちを招いたのかしら? -}
<0070> ……一体、どんな人たちを招いたのかしら?
{- アンジ「ねぇ、お母さん? お客さんが来ているって聞いたけど……」 -}
<0071> アンジ「ねぇ、お母さん? お客さんが来ているって聞いたけど……」
{- ニコラ「おや、お帰り。まぁ、お客さんって言えばお客さんだね」 -}
<0072> ニコラ「おや、お帰り。まぁ、お客さんって言えばお客さんだね」
{- お母さんはのんびりと食堂の椅子に座り、あたしを出迎え、 -}
<0073> お母さんはのんびりと食堂の椅子に座り、あたしを出迎え、
{- ニコラ「いま、泊まる部屋の掃除をしてもらってるよ」などと言う。 -}
<0074> ニコラ「いま、泊まる部屋の掃除をしてもらってるよ」などと言う。
{- アンジ「……お客さん、じゃないの?」 -}
<0075> アンジ「……お客さん、じゃないの?」
{- ニコラ「お客にも色々あるさ。今回のご一行は、面白い面々だね」 -}
<0076> ニコラ「お客にも色々あるさ。今回のご一行は、面白い面々だね」
{- アンジ「(――何がどう面白いのかしら?)」 -}
<0077> アンジ「(――何がどう面白いのかしら?)」
{- さっきリュリュも同じようなことを言っていた。 -}
<0078> さっきリュリュも同じようなことを言っていた。
{- ニコラ「さぁねぇ。どうなんだい、セロ?」 -}
<0079> ニコラ「さぁねぇ。どうなんだい、セロ?」
{- セロ「『はい? ニコラさん、僕のことを呼びましたか?』」 -}
<0080> セロ「『はい? ニコラさん、僕のことを呼びましたか?』」
{- 台所の方から響いてきたのは……男の子の声? -}
<0081> 台所の方から響いてきたのは……男の子の声?
{- ニコラ「あぁ、ちょっとこっちに顔出してくれるかい?」 -}
<0082> ニコラ「あぁ、ちょっとこっちに顔出してくれるかい?」
{- セロ「『分かりました。じゃあ、パウラ。これは切っておいたから、あとよろしくね』」 -}
<0083> セロ「『分かりました。じゃあ、パウラ。これは切っておいたから、あとよろしくね』」
{- パウラ「『はいはいー。いってらっ!』」 -}
<0084> パウラ「『はいはいー。いってらっ!』」
{- 台所で料理番をしているパウラの声が響き、しばらくしてフキンで手を拭きながら……そこそこ身長のある男の子が現れた。 -}
<0085> 台所で料理番をしているパウラの声が響き、しばらくしてフキンで手を拭きながら……そこそこ身長のある男の子が現れた。
{- ニコラ「これが、今回のお客さんのリーダーさんだ」 -}
<0086> ニコラ「これが、今回のお客さんのリーダーさんだ」
{- セロ「はじめまして。セロと言います」 -}
<0087> セロ「はじめまして。セロと言います」
{- アンジ「ど、どうも。あたし、アンジェリナです」 -}
<0088> アンジ「ど、どうも。あたし、アンジェリナです」
{- お互い名乗ったはいいけど、その先どうしていいか相手待ち。\n痺れを切らしたお母さんが、 -}
<0089> お互い名乗ったはいいけど、その先どうしていいか相手待ち。\n痺れを切らしたお母さんが、
{- ニコラ「あぁ、もう! いくら男の子が苦手だって言っても、もう少し愛想良く挨拶できないもんかね?」なんて言い出してビックリ。 -}
<0090> ニコラ「あぁ、もう! いくら男の子が苦手だって言っても、もう少し愛想良く挨拶できないもんかね?」なんて言い出してビックリ。
{- アンジ「ち、ちょっと! 余計なこと言わないでよっ」 -}
<0091> アンジ「ち、ちょっと! 余計なこと言わないでよっ」
{- ニコラ「……ほらね。本当は、これぐらい元気がいいんだ」 -}
<0092> ニコラ「……ほらね。本当は、これぐらい元気がいいんだ」
{- アンジ「おかーさーん!」 -}
<0093> アンジ「おかーさーん!」
{- ニコラ「おー、こわこわっ。まぁ、この子がうちのリーダーみたいなもんさ。仲良くやっとくれ」 -}
<0094> ニコラ「おー、こわこわっ。まぁ、この子がうちのリーダーみたいなもんさ。仲良くやっとくれ」
{- セロ「は、はい」 -}
<0095> セロ「は、はい」
{- ……全く。初対面の人を前に、からかわないで欲しかった。 -}
<0096> ……全く。初対面の人を前に、からかわないで欲しかった。
{- ニコラ「それじゃ悪いんだけどセロ。アンタのお仲間を集めてくれるかい?」 -}
<0097> ニコラ「それじゃ悪いんだけどセロ。アンタのお仲間を集めてくれるかい?」
{- セロ「分かりました。いま、呼んできますね」 -}
<0098> セロ「分かりました。いま、呼んできますね」
{- アンジ「……ふぅ、疲れた」 -}
<0099> アンジ「……ふぅ、疲れた」
{- 食堂での挨拶も終わり、晩ご飯まではゆっくりできる。\nあたしはベッドに寝っ転がって、紹介された面々の顔を順番に思い出してみる。 -}
<0100> 食堂での挨拶も終わり、晩ご飯まではゆっくりできる。\nあたしはベッドに寝っ転がって、紹介された面々の顔を順番に思い出してみる。
{- アンジ「(――最初、庭で会ったのがココ)」 -}
<0101> アンジ「(――最初、庭で会ったのがココ)」
{- 背中にゼンマイ巻きがついた、かわいい -}
<0102> 背中にゼンマイ巻きがついた、かわいい
{- シスター -}
<0103> シスター
{- 人形。\nリュリュの話では来た途端、弟妹の引っ張りだこにされていたそうだ。 -}
<0104> 人形。\nリュリュの話では来た途端、弟妹の引っ張りだこにされていたそうだ。
{- アンジ「(――次に会ったのが、セロ)」 -}
<0105> アンジ「(――次に会ったのが、セロ)」
{- 彼がココのお兄さんで、モスグルンで一緒に暮らしているという。 -}
<0106> 彼がココのお兄さんで、モスグルンで一緒に暮らしているという。
{- アンジ「(――で、あの姉弟が……ワカバとライト)」 -}
<0107> アンジ「(――で、あの姉弟が……ワカバとライト)」
{- お姉さんのワカバは、小説家を目指しているらしい。\nあたしのことをジーッと観察するような感じで、ちょっと取っつきにくかった。\nそしてライトの方は―― -}
<0108> お姉さんのワカバは、小説家を目指しているらしい。\nあたしのことをジーッと観察するような感じで、ちょっと取っつきにくかった。\nそしてライトの方は――
{- ライト「『……あ、あの……お肉屋さんのお姉さん、だよね?』」 -}
<0109> ライト「『……あ、あの……お肉屋さんのお姉さん、だよね?』」
{- アンジ「『えっ!? 何で知ってるの?』」 -}
<0110> アンジ「『えっ!? 何で知ってるの?』」
{- いきなりバイトを当てられて驚いていると、 -}
<0111> いきなりバイトを当てられて驚いていると、
{- ライト「『あ、やっぱり憶えてないか……』」 -}
<0112> ライト「『あ、やっぱり憶えてないか……』」
{- しょんぼりと肩を落とされてしまった。 -}
<0113> しょんぼりと肩を落とされてしまった。
{- アンジ「……ごめんね」 -}
<0114> アンジ「……ごめんね」
{- いまさらだけど、自分の部屋でこっそりとライトに謝る。\nどうやら昼間、あたしがボーッとしていたときに店で買い物をしてくれたらしく。\nその証拠に、うちの台所には……あたしが売った肉の塊がゴロンと転がっていた。 -}
<0115> いまさらだけど、自分の部屋でこっそりとライトに謝る。\nどうやら昼間、あたしがボーッとしていたときに店で買い物をしてくれたらしく。\nその証拠に、うちの台所には……あたしが売った肉の塊がゴロンと転がっていた。
{- アンジ「でも、何でライトは……生肉なんて買ったのかしら?」 -}
<0116> アンジ「でも、何でライトは……生肉なんて買ったのかしら?」
{- 謎は残るが、ひとまずそれは置いておこう。 -}
<0117> 謎は残るが、ひとまずそれは置いておこう。
{- アンジ「…………あとは……」 -}
<0118> アンジ「…………あとは……」
{- もうひとりの -}
<0119> もうひとりの
{- シュエスタ -}
<0120> シュエスタ
{- 人形――ベル。\nあのとき、お母さんのお使いで足りない食材を買いに行かされており、会うことができなかった。 -}
<0121> 人形――ベル。\nあのとき、お母さんのお使いで足りない食材を買いに行かされており、会うことができなかった。
{- アンジ「……どんな子なんだろう?」 -}
<0122> アンジ「……どんな子なんだろう?」
{- やっぱり、ココのようなかわいらしい -}
<0123> やっぱり、ココのようなかわいらしい
{- シュエスタ -}
<0124> シュエスタ
{- 人形かしら?\nそれとも、大人びた感じの綺麗な―― -}
<0125> 人形かしら?\nそれとも、大人びた感じの綺麗な――
{- アンジ「はい?」部屋に響いたノックの音に、ベッドで跳ね起きる。 -}
<0126> アンジ「はい?」部屋に響いたノックの音に、ベッドで跳ね起きる。
{- アンジ「(――もう、食事かしら?)」 -}
<0127> アンジ「(――もう、食事かしら?)」
{- いつものようにリュリュが呼びに来たと思い、ドアを開ける。\n……と向こう側には、ワカバが立っていた。 -}
<0128> いつものようにリュリュが呼びに来たと思い、ドアを開ける。\n……と向こう側には、ワカバが立っていた。
{- ワカバ「はぁーい、アン。ちょっと時間あるかしら?」 -}
<0129> ワカバ「はぁーい、アン。ちょっと時間あるかしら?」
{- アンジ「えぇ、晩ご飯までなら……」 -}
<0130> アンジ「えぇ、晩ご飯までなら……」
{- フレンドリーな口振りに押され、正直に答えてしまった。 -}
<0131> フレンドリーな口振りに押され、正直に答えてしまった。
{- ワカバ「よっし! 好都合ね。お部屋、お邪魔してもいい?」 -}
<0132> ワカバ「よっし! 好都合ね。お部屋、お邪魔してもいい?」
{- アンジ「い、いいけど……散らかってるわよ?」 -}
<0133> アンジ「い、いいけど……散らかってるわよ?」
{- ワカバ「あー、気にしないで。私の部屋に比べたら綺麗よっ」 -}
<0134> ワカバ「あー、気にしないで。私の部屋に比べたら綺麗よっ」
{- あたしの答えを待たずにススッと入ってきたワカバは、 -}
<0135> あたしの答えを待たずにススッと入ってきたワカバは、
{- ワカバ「あーっ! やっぱりぃ!」と大きな声でポスターを指差した。 -}
<0136> ワカバ「あーっ! やっぱりぃ!」と大きな声でポスターを指差した。
{- アンジ「何が、やっぱりなの?」 -}
<0137> アンジ「何が、やっぱりなの?」
{- ワカバ「クリスティナ・ドルン! 白の国のお姫様。\nへーっ、舞台だとこんな感じになるのね……メモメモっ」 -}
<0138> ワカバ「クリスティナ・ドルン! 白の国のお姫様。\nへーっ、舞台だとこんな感じになるのね……メモメモっ」
{- ワカバは、取り出した紙に簡単なスケッチを始める。\n興味が出て後ろから覗き込んだら、このポスターを知る者だけがかろうじて判別できる輪郭線、でしかなかった。 -}
<0139> ワカバは、取り出した紙に簡単なスケッチを始める。\n興味が出て後ろから覗き込んだら、このポスターを知る者だけがかろうじて判別できる輪郭線、でしかなかった。
{- アンジ「(――絵の方は、それほどでもないのね)」 -}
<0140> アンジ「(――絵の方は、それほどでもないのね)」
{- アンジ「……それで、このポスターの噂を聞いて訪ねてきたの?」 -}
<0141> アンジ「……それで、このポスターの噂を聞いて訪ねてきたの?」
{- ワカバ「いいえー。ポスターじゃなくて、アンの噂よ」 -}
<0142> ワカバ「いいえー。ポスターじゃなくて、アンの噂よ」
{- アンジ「あたしの?」 -}
<0143> アンジ「あたしの?」
{- ワカバ「噂ってよりは、そのものズバリね! 待って、今度は失敗しないように言葉を選ぶわ」 -}
<0144> ワカバ「噂ってよりは、そのものズバリね! 待って、今度は失敗しないように言葉を選ぶわ」
{- アンジ「……『今度は』って何?」 -}
<0145> アンジ「……『今度は』って何?」
{- ワカバ「ちょっと待っててね。とびきりの言葉を考えるから」 -}
<0146> ワカバ「ちょっと待っててね。とびきりの言葉を考えるから」
{- なにやら、『私のモノになれ』とか、『私ならあなたをいかせる』とか呟いたあと、 -}
<0147> なにやら、『私のモノになれ』とか、『私ならあなたをいかせる』とか呟いたあと、
{- ワカバ「これにした! アン、私と一緒にプロを目指して!」なんて、腕を掴んできた。 -}
<0148> ワカバ「これにした! アン、私と一緒にプロを目指して!」なんて、腕を掴んできた。
{- アンジ「……ち、ちょっと」 -}
<0149> アンジ「……ち、ちょっと」
{- ワカバ「あれ? 何かおかしい発言だった?」 -}
<0150> ワカバ「あれ? 何かおかしい発言だった?」
{- アンジ「最初にブツブツ言ってたのはおかしいけど……」 -}
<0151> アンジ「最初にブツブツ言ってたのはおかしいけど……」
{- ワカバ「じゃあ、OK?」 -}
<0152> ワカバ「じゃあ、OK?」
{- アンジ「待って、待って。話が見えないわよ。プロを目指すって何?」 -}
<0153> アンジ「待って、待って。話が見えないわよ。プロを目指すって何?」
{- ワカバ「え? アンは舞台女優、私は小説家……でしょ?」 -}
<0154> ワカバ「え? アンは舞台女優、私は小説家……でしょ?」
{- ……ごめん。訊いてるのはあたしの方ね。 -}
<0155> ……ごめん。訊いてるのはあたしの方ね。
{- アンジ「そりゃ、あたしは舞台に立つことが夢だけど……」 -}
<0156> アンジ「そりゃ、あたしは舞台に立つことが夢だけど……」
{- ワカバ「じゃあ、バッチリよ! 舞台に立たせてあげる!」 -}
<0157> ワカバ「じゃあ、バッチリよ! 舞台に立たせてあげる!」
{- アンジ「あなたが? あたしを、舞台、に?」 -}
<0158> アンジ「あなたが? あたしを、舞台、に?」
{- ワカバ「うんうん! それも、役柄は……これ! クリスティナ姫よ」 -}
<0159> ワカバ「うんうん! それも、役柄は……これ! クリスティナ姫よ」
{- ポスターをバーンと指差し、ワカバはとびっきりのスマイル。\nあたしも急な話でドキドキしたけど、よくよく考えれば……眉唾感の方が大きい。\nだいたい、情報が少なすぎる。 -}
<0160> ポスターをバーンと指差し、ワカバはとびっきりのスマイル。\nあたしも急な話でドキドキしたけど、よくよく考えれば……眉唾感の方が大きい。\nだいたい、情報が少なすぎる。
{- アンジ「……もう少し、詳しく」 -}
<0161> アンジ「……もう少し、詳しく」
{- ワカバ「じゃ、説明するわね。知っているかもしれないけど、私の住むモスグルンでは、毎年演劇祭が開かれて――」 -}
<0162> ワカバ「じゃ、説明するわね。知っているかもしれないけど、私の住むモスグルンでは、毎年演劇祭が開かれて――」
{- アンジ「……そうだったの」 -}
<0163> アンジ「……そうだったの」
{- ワカバ「そうだったのよー! 分かってもらえた?」 -}
<0164> ワカバ「そうだったのよー! 分かってもらえた?」
{- アンジ「えぇ、大まかには……ね」 -}
<0165> アンジ「えぇ、大まかには……ね」
{- 彼女の説明で、モスグルンの演劇祭の『だいたい』は掴めた。 -}
<0166> 彼女の説明で、モスグルンの演劇祭の『だいたい』は掴めた。
{- ワカバ「良かったー! もうこれで完璧! アンに会えて良かった!\nまぁ、うちの弟のおかげも少しはあるかなー。あははー」 -}
<0167> ワカバ「良かったー! もうこれで完璧! アンに会えて良かった!\nまぁ、うちの弟のおかげも少しはあるかなー。あははー」
{- アンジ「ライトの?」 -}
<0168> アンジ「ライトの?」
{- ワカバ「そそっ。あの子、アンの働く肉屋さんで買い物したでしょ?\nあれは、アンのことを探しに行って……ああなったらしいの」 -}
<0169> ワカバ「そそっ。あの子、アンの働く肉屋さんで買い物したでしょ?\nあれは、アンのことを探しに行って……ああなったらしいの」
{- ワカバの話は、ポンポンと飛ぶのでついていくのが大変。 -}
<0170> ワカバの話は、ポンポンと飛ぶのでついていくのが大変。
{- ワカバ「……まぁ、ライトがアンを見初めたのにはビックリしたけど」 -}
<0171> ワカバ「……まぁ、ライトがアンを見初めたのにはビックリしたけど」
{- あのセロって子はワカバと仲が良さそうだけど、いつもこんな調子で会話してるのかしら? -}
<0172> あのセロって子はワカバと仲が良さそうだけど、いつもこんな調子で会話してるのかしら?
{- ワカバ「ま、とにかく! ライトと私の一押しで、アンに決定!」 -}
<0173> ワカバ「ま、とにかく! ライトと私の一押しで、アンに決定!」
{- アンジ「そうね。あたしが『うん』って言ったら、決まりよね」 -}
<0174> アンジ「そうね。あたしが『うん』って言ったら、決まりよね」
{- ワカバ「うんうん! ちゃーんとドレスとか用意するから!」 -}
<0175> ワカバ「うんうん! ちゃーんとドレスとか用意するから!」
{- アンジ「(――ド、ドレス……)」 -}
<0176> アンジ「(――ド、ドレス……)」
{- 普段からポスターで見る、クリスティナ姫のドレス姿。\n一瞬、自分がそれと重なる光景を思い浮かべて、心が揺れる。 -}
<0177> 普段からポスターで見る、クリスティナ姫のドレス姿。\n一瞬、自分がそれと重なる光景を思い浮かべて、心が揺れる。
{- アンジ「(――だけど……)」 -}
<0178> アンジ「(――だけど……)」
{- アンジ「ねぇ、ワカバ。それは少し考え直した方がいいわよ」 -}
<0179> アンジ「ねぇ、ワカバ。それは少し考え直した方がいいわよ」
{- あたしは彼女に呑まれないよう、慎重に言葉をつむぐ。 -}
<0180> あたしは彼女に呑まれないよう、慎重に言葉をつむぐ。
{- ワカバ「……へっ? なにを考え直すの?」 -}
<0181> ワカバ「……へっ? なにを考え直すの?」
{- アンジ「クリスティナ・ドルンの役」 -}
<0182> アンジ「クリスティナ・ドルンの役」
{- ワカバ「なんで?」 -}
<0183> ワカバ「なんで?」
{- アンジ「あたしが……引き受けないから」 -}
<0184> アンジ「あたしが……引き受けないから」
{- ワカバ「…………えぇぇぇぇっ!?」 -}
<0185> ワカバ「…………えぇぇぇぇっ!?」
{- アンジ「……ふーっ」 -}
<0186> アンジ「……ふーっ」
{- あたしは、ため息混じりでベッドに身を投げ出す。\nいや、疲労がたまっているのは精神的なものね。 -}
<0187> あたしは、ため息混じりでベッドに身を投げ出す。\nいや、疲労がたまっているのは精神的なものね。
{- アンジ「(――ワカバったら、もう夜なのに……)」 -}
<0188> アンジ「(――ワカバったら、もう夜なのに……)」
{- 結構なボリュームで、『どーして、どーして?』の連呼をしてくれたせいで、他の部屋の子たちが覗きに来る始末。\nおかげで部屋から追い出す口実はできたけど―― -}
<0189> 結構なボリュームで、『どーして、どーして?』の連呼をしてくれたせいで、他の部屋の子たちが覗きに来る始末。\nおかげで部屋から追い出す口実はできたけど――
{- アンジ「……はーぁ。今日は、散々な日ね」 -}
<0190> アンジ「……はーぁ。今日は、散々な日ね」
{- 選考から落ちるわ、変な誘いを持ちかけられるわ。 -}
<0191> 選考から落ちるわ、変な誘いを持ちかけられるわ。
{- アンジ「(――そりゃ、舞台に立てるのは魅力的だけど……)」 -}
<0192> アンジ「(――そりゃ、舞台に立てるのは魅力的だけど……)」
{- まだ脚本もできておらず、役者の見通しすらたってない。\n強いて言うならワカバはプロでも何でもない……小説好きな女の子で、舞台については素人。\nあたしもプロじゃないから大きなことは言えないけど、どう考えても成功しそうには思えない。 -}
<0193> まだ脚本もできておらず、役者の見通しすらたってない。\n強いて言うならワカバはプロでも何でもない……小説好きな女の子で、舞台については素人。\nあたしもプロじゃないから大きなことは言えないけど、どう考えても成功しそうには思えない。
{- アンジ「(――もっときつーく言ってあげれば良かったかな?)」 -}
<0194> アンジ「(――もっときつーく言ってあげれば良かったかな?)」
{- 恥かくだけよ、とか。他の役者を揃えられたらね、とか条件つけたりして。\nそうすれば、諦めて別の人を探しに行ったかも。 -}
<0195> 恥かくだけよ、とか。他の役者を揃えられたらね、とか条件つけたりして。\nそうすれば、諦めて別の人を探しに行ったかも。
{- アンジ「……演劇、か」 -}
<0196> アンジ「……演劇、か」
{- ワカバは、あたしが舞台を目指しているのを知ってて声をかけてきたのかしら?\nそうでなければ、そんな話を振ってきたりはしないと思う。 -}
<0197> ワカバは、あたしが舞台を目指しているのを知ってて声をかけてきたのかしら?\nそうでなければ、そんな話を振ってきたりはしないと思う。
{- アンジ「あれ? でも待って」 -}
<0198> アンジ「あれ? でも待って」
{- さっき彼女は『ライトがあたしを見初めた』とか、何とか。\nもしそれが本当なら、あたしが演劇を目指していることを知っていたのは……ライト? -}
<0199> さっき彼女は『ライトがあたしを見初めた』とか、何とか。\nもしそれが本当なら、あたしが演劇を目指していることを知っていたのは……ライト?
{- アンジ「……どうでもいいか……」 -}
<0200> アンジ「……どうでもいいか……」
{- 誰が最初に知ろうが、あたしには関係ない。\nここで舞台に立ちたいがあまり承諾してしまったら、次のオーディションを目指す練習ができなくなる。\nいや、それ以前に。 -}
<0201> 誰が最初に知ろうが、あたしには関係ない。\nここで舞台に立ちたいがあまり承諾してしまったら、次のオーディションを目指す練習ができなくなる。\nいや、それ以前に。
{- アンジ「……しばらく家を離れることになるじゃないの」 -}
<0202> アンジ「……しばらく家を離れることになるじゃないの」
{- その間、バイトもできない。\nこうやって考えると、初めから無理だったことが浮き彫りになるだけだった。 -}
<0203> その間、バイトもできない。\nこうやって考えると、初めから無理だったことが浮き彫りになるだけだった。
{- アンジ「……ん?」 -}
<0204> アンジ「……ん?」
{- いつの間にか、あたしはウトウトしていたらしく、ノックの音で目が覚めた。 -}
<0205> いつの間にか、あたしはウトウトしていたらしく、ノックの音で目が覚めた。
{- アンジ「はぁーい。もうご飯?」 -}
<0206> アンジ「はぁーい。もうご飯?」
{- ベル「『……そ、そうです』」 -}
<0207> ベル「『……そ、そうです』」
{- 寝ぼけているせいか、向こうから返ってきた声が誰の者か判らない。 -}
<0208> 寝ぼけているせいか、向こうから返ってきた声が誰の者か判らない。
{- アンジ「リュリュ? パウラ?」 -}
<0209> アンジ「リュリュ? パウラ?」
{- ベル「『えっと……ベルと言います』」 -}
<0210> ベル「『えっと……ベルと言います』」
{- アンジ「(――ベル? ベルって……)」 -}
<0211> アンジ「(――ベル? ベルって……)」
{- 頭を振って考えると、団体さんのひとりがそんな名前だったような気がする。 -}
<0212> 頭を振って考えると、団体さんのひとりがそんな名前だったような気がする。
{- アンジ「ち、ちょっと待ってね。いま出るから」 -}
<0213> アンジ「ち、ちょっと待ってね。いま出るから」
{- ベル「『……はい』」 -}
<0214> ベル「『……はい』」
{- 簡単に髪をとかし、スカートの裾を払ってからドアを開ける。\n……とそこに立っていたのは―― -}
<0215> 簡単に髪をとかし、スカートの裾を払ってからドアを開ける。\n……とそこに立っていたのは――
{- アンジ「……あなた!?」 -}
<0216> アンジ「……あなた!?」
{- ベル「え? あ、どうも。初めまして」 -}
<0217> ベル「え? あ、どうも。初めまして」
{- 昨日、裏路地の練習場で見た……あの唄の女の子!? -}
<0218> 昨日、裏路地の練習場で見た……あの唄の女の子!?
{- アンジ「……あ、あなたがベル……?」 -}
<0219> アンジ「……あ、あなたがベル……?」
{- ベル「はい。ご挨拶が遅れてすみません。ワタシのことは……もう他の人から聞いてますか?」 -}
<0220> ベル「はい。ご挨拶が遅れてすみません。ワタシのことは……もう他の人から聞いてますか?」
{- アンジ「う、ううん。名前と……」 -}
<0221> アンジ「う、ううん。名前と……」
{- シュエスタ -}
<0222> シュエスタ
{- 人形ということぐらいしか教えてもらってない。 -}
<0223> 人形ということぐらいしか教えてもらってない。
{- ベル「ワタシは、ジルベルクからセロたちと一緒に旅をしてます」 -}
<0224> ベル「ワタシは、ジルベルクからセロたちと一緒に旅をしてます」
{- アンジ「……そうなの」 -}
<0225> アンジ「……そうなの」
{- ベル「……? あの、ワタシの顔に何かついてますか?」 -}
<0226> ベル「……? あの、ワタシの顔に何かついてますか?」
{- アンジ「う、ううん。そんなことないわ。綺麗よ」 -}
<0227> アンジ「う、ううん。そんなことないわ。綺麗よ」
{- ……あたしったら、何いってるんだろ。\nでも、見れば見るほど――人間にしか見えない。 -}
<0228> ……あたしったら、何いってるんだろ。\nでも、見れば見るほど――人間にしか見えない。
{- アンジ「あの、あなたって…… -}
<0229> アンジ「あの、あなたって……
{- シュエスタ -}
<0230> シュエスタ
{- 人形、よね?」 -}
<0231> 人形、よね?」
{- ベル「え? あ、はい。そうです。でも、久し振りです、その呼ばれ方をされるのは」 -}
<0232> ベル「え? あ、はい。そうです。でも、久し振りです、その呼ばれ方をされるのは」
{- アンジ「 -}
<0233> アンジ「
{- シュエスタ -}
<0234> シュエスタ
{- 人形、って呼ばれたことあるの?」 -}
<0235> 人形、って呼ばれたことあるの?」
{- ベル「むかし、数回だけ。父に訊いたら、演劇をする人たちが、舞台にあがる -}
<0236> ベル「むかし、数回だけ。父に訊いたら、演劇をする人たちが、舞台にあがる
{- シスター -}
<0237> シスター
{- 人形をそう呼ぶことがある、と教えてくれました」 -}
<0238> 人形をそう呼ぶことがある、と教えてくれました」
{- アンジ「……そうだったの」話が通じて、ちょっと嬉しい。 -}
<0239> アンジ「……そうだったの」話が通じて、ちょっと嬉しい。
{- あたしは改めて目の前のベルを見て、ふとあのときの唄について訪ねてみたくなった。 -}
<0240> あたしは改めて目の前のベルを見て、ふとあのときの唄について訪ねてみたくなった。
{- アンジ「あなた、唄とか歌うの?」 -}
<0241> アンジ「あなた、唄とか歌うの?」
{- ベル「えっ?」ベルの表情が、少し曇る。 -}
<0242> ベル「えっ?」ベルの表情が、少し曇る。
{- アンジ「(――あっ、訊いたらいけなかったのかしら?)」 -}
<0243> アンジ「(――あっ、訊いたらいけなかったのかしら?)」
{- ベル「……もしかして、ワカバに聞きましたか?」 -}
<0244> ベル「……もしかして、ワカバに聞きましたか?」
{- アンジ「ううん、違うけど……どうして?」 -}
<0245> アンジ「ううん、違うけど……どうして?」
{- ベル「アンジェリナさん、ワカバから演劇祭に誘われましたか?」 -}
<0246> ベル「アンジェリナさん、ワカバから演劇祭に誘われましたか?」
{- アンジ「……えぇ、ついさっき」 -}
<0247> アンジ「……えぇ、ついさっき」
{- ベル「ワタシも誘われました。お姫様の横で、唄を歌う天使の役として舞台にあがらないか、と」 -}
<0248> ベル「ワタシも誘われました。お姫様の横で、唄を歌う天使の役として舞台にあがらないか、と」
{- そう言われてみれば、『天使役はほぼ決まりで……』などと、ワカバがすごい勢いで説明してくれたような。 -}
<0249> そう言われてみれば、『天使役はほぼ決まりで……』などと、ワカバがすごい勢いで説明してくれたような。
{- アンジ「あなたは、それを受けたの?」 -}
<0250> アンジ「あなたは、それを受けたの?」
{- ベル「まだ考えてます。ワタシは出たくても、出られないので」 -}
<0251> ベル「まだ考えてます。ワタシは出たくても、出られないので」
{- アンジ「どうして? 演劇の経験がないから、とか?」 -}
<0252> アンジ「どうして? 演劇の経験がないから、とか?」
{- ベル「それもありますけど……もっと大きな理由があります。\nワタシ、唄が歌えないんです」 -}
<0253> ベル「それもありますけど……もっと大きな理由があります。\nワタシ、唄が歌えないんです」
{- アンジ「えっ、ちょっと待って。だってあなた唄を……」 -}
<0254> アンジ「えっ、ちょっと待って。だってあなた唄を……」
{- ベル「はい。ワカバがは『唄を歌えるから天使役を……』と言ってくれました。でも、ワタシは……人前で唄が歌えないんです」 -}
<0255> ベル「はい。ワカバがは『唄を歌えるから天使役を……』と言ってくれました。でも、ワタシは……人前で唄が歌えないんです」
{- ベル「……ねぇ、ココちゃん。横に座っても、いい?」 -}
<0256> ベル「……ねぇ、ココちゃん。横に座っても、いい?」
{- ココ「あい、あい。どう、ぞー」 -}
<0257> ココ「あい、あい。どう、ぞー」
{- 孤児院のみんなと晩ご飯を一緒に食べ、小さい子たちは寝る準備を。\nそして、ワタシたちはせめてものお礼に……と後片付けを手伝わせてもらった。 -}
<0258> 孤児院のみんなと晩ご飯を一緒に食べ、小さい子たちは寝る準備を。\nそして、ワタシたちはせめてものお礼に……と後片付けを手伝わせてもらった。
{- ベル「みんな、いい子たちよね?」 -}
<0259> ベル「みんな、いい子たちよね?」
{- ココ「うん。ボ~ク、ドーン、したの。ドーン」 -}
<0260> ココ「うん。ボ~ク、ドーン、したの。ドーン」
{- ベル「……どーん? あぁ、お庭で子どもたちと『どーん』ね」 -}
<0261> ベル「……どーん? あぁ、お庭で子どもたちと『どーん』ね」
{- 子どもたちは我先にココと遊ぼうとして、躍起になっていたのを思い出す。 -}
<0262> 子どもたちは我先にココと遊ぼうとして、躍起になっていたのを思い出す。
{- ココ「ファーも、ドーン、すきー?」 -}
<0263> ココ「ファーも、ドーン、すきー?」
{- ベル「痛くなかったら、好きかな」 -}
<0264> ベル「痛くなかったら、好きかな」
{- ココ「……ちょと、いたい。でも、たの、しーい」 -}
<0265> ココ「……ちょと、いたい。でも、たの、しーい」
{- ベル「うふふふっ」 -}
<0266> ベル「うふふふっ」
{- ココと話していると、それだけで元気になれる。\nきっと子どもたちがココに近寄る理由も、同じなんだと思う。 -}
<0267> ココと話していると、それだけで元気になれる。\nきっと子どもたちがココに近寄る理由も、同じなんだと思う。
{- ニコラ「あらあら。 -}
<0268> ニコラ「あらあら。
{- シスター -}
<0269> シスター
{- 人形がそろって悪巧みかい?」 -}
<0270> 人形がそろって悪巧みかい?」
{- 台所から出てきたニコラは、ニコニコ顔。\n言葉は悪いけど、決して本気で疑っているわけでないことは口調で判る。 -}
<0271> 台所から出てきたニコラは、ニコニコ顔。\n言葉は悪いけど、決して本気で疑っているわけでないことは口調で判る。
{- ベル「そんなことありませんよ」 -}
<0272> ベル「そんなことありませんよ」
{- ニコラ「まぁ、少しぐらい悪さする方がかわいいってもんさ。\n……ん、どうしたんだい、ココ? 何か見えるのかい?」 -}
<0273> ニコラ「まぁ、少しぐらい悪さする方がかわいいってもんさ。\n……ん、どうしたんだい、ココ? 何か見えるのかい?」
{- ココ「あー、れー」 -}
<0274> ココ「あー、れー」
{- ニコラに訪ねられたココが指差したのは、棚の上に乗せられたテレビ。\nお父さんがときどき観ているテレビより、ちょっと古い型に見える。 -}
<0275> ニコラに訪ねられたココが指差したのは、棚の上に乗せられたテレビ。\nお父さんがときどき観ているテレビより、ちょっと古い型に見える。
{- ニコラ「テレビが観たいのかい? でも、時間がね……」 -}
<0276> ニコラ「テレビが観たいのかい? でも、時間がね……」
{- ココ「じか、んー?」 -}
<0277> ココ「じか、んー?」
{- ニコラ「まぁ、いいか。今日はよく働いてくれたから特別だよ」 -}
<0278> ニコラ「まぁ、いいか。今日はよく働いてくれたから特別だよ」
{- そう言ってニコラは棚に手を伸ばし、テレビのスイッチを入れる。\nそして、ワタシに向かい、 -}
<0279> そう言ってニコラは棚に手を伸ばし、テレビのスイッチを入れる。\nそして、ワタシに向かい、
{- ニコラ「子どもたちを早く寝かすために、夜はあまり付けないんだよ」と、先の理由を教えてくれた。 -}
<0280> ニコラ「子どもたちを早く寝かすために、夜はあまり付けないんだよ」と、先の理由を教えてくれた。
{- ココ「やっ、たー」 -}
<0281> ココ「やっ、たー」
{- ニコラ「悪いけど、ボリュームは下げるからね。他の子たちが起きてこないように。\nチャンネルはどうする? 適当でいいかい?」 -}
<0282> ニコラ「悪いけど、ボリュームは下げるからね。他の子たちが起きてこないように。\nチャンネルはどうする? 適当でいいかい?」
{- ココ「あいー」 -}
<0283> ココ「あいー」
{- お任せをされたニコラは、なにやら古くさい映画を選局し、笑いながら台所へ戻っていく。 -}
<0284> お任せをされたニコラは、なにやら古くさい映画を選局し、笑いながら台所へ戻っていく。
{- ベル「ココ、面白い?」 -}
<0285> ベル「ココ、面白い?」
{- ココ「あい。おひげー、のひと、です」 -}
<0286> ココ「あい。おひげー、のひと、です」
{- ベル「どんな感じ?」 -}
<0287> ベル「どんな感じ?」
{- ひげの人と言われ、何となくお父さんを思い出して興味をそそられたワタシは、横からテレビ画面を覗き込んでみる。\nボリュームが小さいので映像からの判断になるが、どうやら『ならず者と賞金稼ぎ』の映画らしい。\nそして、お話はだいぶ前に始まっていたらしく、いきなり銃弾が飛び交うシーンになっていた。 -}
<0288> ひげの人と言われ、何となくお父さんを思い出して興味をそそられたワタシは、横からテレビ画面を覗き込んでみる。\nボリュームが小さいので映像からの判断になるが、どうやら『ならず者と賞金稼ぎ』の映画らしい。\nそして、お話はだいぶ前に始まっていたらしく、いきなり銃弾が飛び交うシーンになっていた。
{- ココ「バーン、バキュー、ン」 -}
<0289> ココ「バーン、バキュー、ン」
{- 画面の中のフラッシュに合わせ、ココが小さい声で音真似をする。\nワタシもしばらく眺めていたが、むかしお父さんと一緒に観たような気がしてきた。 -}
<0290> 画面の中のフラッシュに合わせ、ココが小さい声で音真似をする。\nワタシもしばらく眺めていたが、むかしお父さんと一緒に観たような気がしてきた。
{- ベル「(――あれ? ワタシ、何だかお父さんのことばかり考えてる?)」 -}
<0291> ベル「(――あれ? ワタシ、何だかお父さんのことばかり考えてる?)」
{- ジルベルクを離れて3日ぐらいしか経ってないのに、もしやホームシックとか? -}
<0292> ジルベルクを離れて3日ぐらいしか経ってないのに、もしやホームシックとか?
{- ココ「ドーン」 -}
<0293> ココ「ドーン」
{- ベル「(――変なの)」 -}
<0294> ベル「(――変なの)」
{- これまで長い時間を過ごしてきたのに、たった3日の時間を気にするなんて。\nだけど、お父さんが言っていた。\n誰にとっても時間は平等に流れるだが、その長さをどう感じるかはその人次第だ……と。\n -}
<0295> これまで長い時間を過ごしてきたのに、たった3日の時間を気にするなんて。\nだけど、お父さんが言っていた。\n誰にとっても時間は平等に流れるだが、その長さをどう感じるかはその人次第だ……と。\n
{- それは -}
<0296> それは
{- シスター -}
<0297> シスター
{- 人形にも同じこと?\n -}
<0298> 人形にも同じこと?\n
{- 動力である -}
<0299> 動力である
{- ドロップ -}
<0300> ドロップ
{- 人形石が違うと、それだけで感じ方が変わるのかもしれない。\n -}
<0301> 人形石が違うと、それだけで感じ方が変わるのかもしれない。\n
{- それとも、身体と -}
<0302> それとも、身体と
{- ドロップ -}
<0303> ドロップ
{- 人形石との組み合わせ?\n経験と記憶によって左右される?\nもしどれかひとつでもこの条件に当てはまるなら、ワタシと\nココは、一緒だったこの3日間の長さを別々に感じている? -}
<0304> 人形石との組み合わせ?\n経験と記憶によって左右される?\nもしどれかひとつでもこの条件に当てはまるなら、ワタシと\nココは、一緒だったこの3日間の長さを別々に感じている?
{- ベル「(――ワタシの感覚は、どちらに近いのかな?)」 -}
<0305> ベル「(――ワタシの感覚は、どちらに近いのかな?)」
{- 出会って間もない、同じ -}
<0306> 出会って間もない、同じ
{- シスター -}
<0307> シスター
{- 人形のココか。\nそれとも、ずっと一緒に暮らしてきたお父さんなのか。\n -}
<0308> 人形のココか。\nそれとも、ずっと一緒に暮らしてきたお父さんなのか。\n
{- 突き詰めて考えれば、 -}
<0309> 突き詰めて考えれば、
{- シスター -}
<0310> シスター
{- 人形か、人間か―― -}
<0311> 人形か、人間か――
{- ちょうど隣の部屋で電話が鳴り、ワタシの集中力が切れた。 -}
<0312> ちょうど隣の部屋で電話が鳴り、ワタシの集中力が切れた。
{- ベル「(――慣れないことを考えたら、疲れちゃった)」 -}
<0313> ベル「(――慣れないことを考えたら、疲れちゃった)」
{- ワタシはそっと立ち上がり、ココにお休みを言って食堂を出ようとする。\n……が、そのとき。 -}
<0314> ワタシはそっと立ち上がり、ココにお休みを言って食堂を出ようとする。\n……が、そのとき。
{- ニコラ「あぁ、天使さん。ちょっと頼まれごと、いいかね?」 -}
<0315> ニコラ「あぁ、天使さん。ちょっと頼まれごと、いいかね?」
{- ベル「はい、なんでしょう?」 -}
<0316> ベル「はい、なんでしょう?」
{- ニコラ「悪いけど、アンに『電話だよ』って伝えてくれるかい」 -}
<0317> ニコラ「悪いけど、アンに『電話だよ』って伝えてくれるかい」
{- ベル「はい、いいですよ」 -}
<0318> ベル「はい、いいですよ」
{- ニコラ「相手は、『マリオン』だそうだよ」 -}
<0319> ニコラ「相手は、『マリオン』だそうだよ」
{- 晩ご飯の前に呼びに行ったから、部屋は知っている。\nワタシはなるべく足音を立てないよう気をつけつつ、彼女に伝言を運ぶ。 -}
<0320> 晩ご飯の前に呼びに行ったから、部屋は知っている。\nワタシはなるべく足音を立てないよう気をつけつつ、彼女に伝言を運ぶ。
{- アンジ「あたし宛に電話? 誰からかしら?」 -}
<0321> アンジ「あたし宛に電話? 誰からかしら?」
{- ベル「マリオンさん……だそうです」 -}
<0322> ベル「マリオンさん……だそうです」
{- アンジ「……うそっ! いやだ、どうしよう!?」 -}
<0323> アンジ「……うそっ! いやだ、どうしよう!?」
{- 名前を聴いて慌てたアンジェリナは、急いで鏡の前に立って髪や服のチェックを始める。 -}
<0324> 名前を聴いて慌てたアンジェリナは、急いで鏡の前に立って髪や服のチェックを始める。
{- ベル「あの、電話ですから相手には見えないかと」 -}
<0325> ベル「あの、電話ですから相手には見えないかと」
{- アンジ「……そ、それもそうね。うん、いそがなきゃ!」 -}
<0326> アンジ「……そ、それもそうね。うん、いそがなきゃ!」
{- ここまで気を遣って歩いてきた廊下に、アンジェリナの走る大きな足音が響く。 -}
<0327> ここまで気を遣って歩いてきた廊下に、アンジェリナの走る大きな足音が響く。
{- ベル「……あぁ。ドア、開けっ放しです……」 -}
<0328> ベル「……あぁ。ドア、開けっ放しです……」
{- ワタシはドアを閉めようとして、彼女の部屋に貼ってあるポスターを見つける。\nそこには、クリスティナ・ドルンという名前が。 -}
<0329> ワタシはドアを閉めようとして、彼女の部屋に貼ってあるポスターを見つける。\nそこには、クリスティナ・ドルンという名前が。
{- ベル「……あれが、アンジェリナさんの目指すお姫様?」 -}
<0330> ベル「……あれが、アンジェリナさんの目指すお姫様?」
{- 当然、ポスターの人がクリスティナ姫本人ではないのは判る。\nでも、そこにある『お姫様像』は、限りなくアンジェリナに近くて―― -}
<0331> 当然、ポスターの人がクリスティナ姫本人ではないのは判る。\nでも、そこにある『お姫様像』は、限りなくアンジェリナに近くて――
{- ベル「……ワカバたちも、同じように感じたのかな?」 -}
<0332> ベル「……ワカバたちも、同じように感じたのかな?」
{- そう思うと、ワタシもアンジェリナが演じるクリスティナの姿が観てみたくなった。 -}
<0333> そう思うと、ワタシもアンジェリナが演じるクリスティナの姿が観てみたくなった。
{- ココ「おかえ、りー」 -}
<0334> ココ「おかえ、りー」
{- ベル「ただいま。映画はどこまで進んだの?」 -}
<0335> ベル「ただいま。映画はどこまで進んだの?」
{- ココ「おひげー、ろう、やー」 -}
<0336> ココ「おひげー、ろう、やー」
{- どうやら、ワタシが戻ってくるまでに髭の人は牢屋に入れられてしまった様子。\n確かこのあと髭の人は仲間に助けられて、最後にならず者と一対一の決闘を試みる展開だったかな? -}
<0337> どうやら、ワタシが戻ってくるまでに髭の人は牢屋に入れられてしまった様子。\n確かこのあと髭の人は仲間に助けられて、最後にならず者と一対一の決闘を試みる展開だったかな?
{- ココ「おひげー、たい、へん」 -}
<0338> ココ「おひげー、たい、へん」
{- ベル「そうね。ピンチみたい」 -}
<0339> ベル「そうね。ピンチみたい」
{- 終わりも近そうなので、ココと一緒に最後まで観ることに。\nだけどワタシには、結末の解っている映画よりも、隣の部屋から漏れ聞こえてくるアンジェリナの声の方が気になった。 -}
<0340> 終わりも近そうなので、ココと一緒に最後まで観ることに。\nだけどワタシには、結末の解っている映画よりも、隣の部屋から漏れ聞こえてくるアンジェリナの声の方が気になった。
{- 「(――やっばり、盗み聞きはダメよね)」 -}
<0341> 「(――やっばり、盗み聞きはダメよね)」
{- 「(――マリオンって、誰なんだろう?)」 -}
<0342> 「(――マリオンって、誰なんだろう?)」
{- ベル「(――マリオンって、誰なんだろう?)」 -}
<0343> ベル「(――マリオンって、誰なんだろう?)」
{- 呼びに行ったときのアンジェリナの慌てようから考えて、相手が『お友達』とは考えづらい。\n身だしなみを気にしたぐらいだから、アンジェリナにとって……大切な人とか、尊敬する人かしら?\nワタシは悪いとは思いつつ、そっと耳に神経を集中させる。 -}
<0344> 呼びに行ったときのアンジェリナの慌てようから考えて、相手が『お友達』とは考えづらい。\n身だしなみを気にしたぐらいだから、アンジェリナにとって……大切な人とか、尊敬する人かしら?\nワタシは悪いとは思いつつ、そっと耳に神経を集中させる。
{- アンジ「『……はい。それは審査員にも言われました』」 -}
<0345> アンジ「『……はい。それは審査員にも言われました』」
{- ベル「(――審査員?)」 -}
<0346> ベル「(――審査員?)」
{- アンジ「『もちろん、受かるつもりでした。えっ、自信ですか?\nそれは、そこそこ……』」 -}
<0347> アンジ「『もちろん、受かるつもりでした。えっ、自信ですか?\nそれは、そこそこ……』」
{- アンジ「『そんな! 落ちるつもりだったら、受けません!』」 -}
<0348> アンジ「『そんな! 落ちるつもりだったら、受けません!』」
{- ココ「……ドッ、サー」 -}
<0349> ココ「……ドッ、サー」
{- ベル「あ、あのねココちゃん。電話してるから、シーッ」 -}
<0350> ベル「あ、あのねココちゃん。電話してるから、シーッ」
{- ココ「あー、あいー」 -}
<0351> ココ「あー、あいー」
{- ちょうど画面の中で敵役の人が倒れたのを観て……の擬音だったらしい。 -}
<0352> ちょうど画面の中で敵役の人が倒れたのを観て……の擬音だったらしい。
{- アンジ「『……ひどいです、おねえさま!』」 -}
<0353> アンジ「『……ひどいです、おねえさま!』」
{- おねえさま? アンジェリナのお姉さん?\nもしかしたら、孤児院を去った年上の人? -}
<0354> おねえさま? アンジェリナのお姉さん?\nもしかしたら、孤児院を去った年上の人?
{- アンジ「『……えっ、本当ですか? いつこちらに?』」 -}
<0355> アンジ「『……えっ、本当ですか? いつこちらに?』」
{- そのあとは何度も頷く声が続き、 -}
<0356> そのあとは何度も頷く声が続き、
{- アンジ「『……それでは、お休みなさい』」 -}
<0357> アンジ「『……それでは、お休みなさい』」
{- で締められ、電話が切れる音がする。\nそして、しばらく経ってから、アンジェリナが食堂へと顔を出した。 -}
<0358> で締められ、電話が切れる音がする。\nそして、しばらく経ってから、アンジェリナが食堂へと顔を出した。
{- ベル「(――やっばり、盗み聞きはダメよね)」 -}
<0359> ベル「(――やっばり、盗み聞きはダメよね)」
{- 気になるとはいえ、無縁のワタシがプライベートな話を聞くわけにはいかない。\nそう思って、ココと一緒にテレビの方へと意識を集中させる。\nそれでも、 -}
<0360> 気になるとはいえ、無縁のワタシがプライベートな話を聞くわけにはいかない。\nそう思って、ココと一緒にテレビの方へと意識を集中させる。\nそれでも、
{- ……など、大きな声はどうしても拾ってしまい、とても悪い気がしてきた。 -}
<0361> ……など、大きな声はどうしても拾ってしまい、とても悪い気がしてきた。
{- ココ「あー、おひげー。ばきゅー、ん!」 -}
<0362> ココ「あー、おひげー。ばきゅー、ん!」
{- ベル「あー、残念。撃たれちゃったね」 -}
<0363> ベル「あー、残念。撃たれちゃったね」
{- ココ「うん、うん」 -}
<0364> ココ「うん、うん」
{- 最後は、弾が当たっても死ななかった賞金稼ぎが立ち上がり、油断していたならず者が振り返ったところを一発で仕留める。 -}
<0365> 最後は、弾が当たっても死ななかった賞金稼ぎが立ち上がり、油断していたならず者が振り返ったところを一発で仕留める。
{- そして、そんな展開が終わって画面に『END』が出た頃に、アンジェリナが食堂へと顔を出した。 -}
<0366> そして、そんな展開が終わって画面に『END』が出た頃に、アンジェリナが食堂へと顔を出した。
{- アンジ「……あら、テレビ観てたの?」 -}
<0367> アンジ「……あら、テレビ観てたの?」
{- ココ「あいあい。おひげー、ばきゅー、ん。ド、サーッ」 -}
<0368> ココ「あいあい。おひげー、ばきゅー、ん。ド、サーッ」
{- アンジ「楽しそうね」 -}
<0369> アンジ「楽しそうね」
{- そう言って笑うアンジェリナも、どこか嬉しそうで。\nワタシもつられて微笑むと、アンジェリナが、 -}
<0370> そう言って笑うアンジェリナも、どこか嬉しそうで。\nワタシもつられて微笑むと、アンジェリナが、
{- アンジ「さっきはありがとうね」柔らかい声でお礼を言ってくれた。 -}
<0371> アンジ「さっきはありがとうね」柔らかい声でお礼を言ってくれた。
{- ベル「あ、別に……ただ、電話のことを伝えただけですから」 -}
<0372> ベル「あ、別に……ただ、電話のことを伝えただけですから」
{- アンジ「それはそうなんだけど……うん、何となくね」 -}
<0373> アンジ「それはそうなんだけど……うん、何となくね」
{- それだけ言うと、アンジェリナは自分の部屋へと去っていく。 -}
<0374> それだけ言うと、アンジェリナは自分の部屋へと去っていく。
{- ココ「ファー、つぎ、はー?」 -}
<0375> ココ「ファー、つぎ、はー?」
{- ベル「もう寝ましょ? セロたちがお部屋で待ってると思うわ」 -}
<0376> ベル「もう寝ましょ? セロたちがお部屋で待ってると思うわ」
{- ココ「あーい」 -}
<0377> ココ「あーい」
{- テレビを消して、ココをセロたちの部屋まで送る。\nそして、すぐにワタシも用意された個室へと戻り……休んだ。 -}
<0378> テレビを消して、ココをセロたちの部屋まで送る。\nそして、すぐにワタシも用意された個室へと戻り……休んだ。