Suigetsu:05 B02.txt
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ぼーっとしている雪さん 明日から学園に復帰ということで、午前中は、おとなしく机に向かうことにした。 勉強のほうは、入院している間にだいぶ遅れてしまっている。 庄一のノート、それから雪さんがいてくれるから、今のところ、どうにかなってはいるけど。 どこか学校に通っているわけでもないのに、雪さんはやたらと勉強ができた。 本当に困った時しか聞かないようにしているけど、今のところ質問に対する雪さんの正答率は百パーセント。 しかも、ただ答えを出すだけじゃなくて僕が理解できるようになるまで親切に教えてくれる。 本人の理解がよほど深くないと、人に教えるなんてできないことだろう。 いつ勉強しているのか不思議に思った僕が、入院中にそのことを聞いてみると、 雪「ときどき、今みたいに、透矢さんとお勉強をさせてもらうんです」 と、真顔でうれしそうに言われてしまった。 つまり、雪さんは、普通の学生が参考書や塾まで併用してようやく、という内容を独学で理解してしまうわけだ。 それも、何かの拍子に、教科書を流し読みしたくらいで。 信じられない話だけど、実際に結果が出ていることなので信じるしかなかった。 彼女は、天才と呼ばれるような人種なのかもしれない。 メイドとしての仕事ぶり、見た目の美しさや人がらにしてもそうだけど、雪さんには欠点というものが見あたらない。 だけど、そんな彼女が今日に限っては少し妙な素振りを見せていた。 透矢「雪さん」 雪「…」 透矢「雪さーん」 雪「あっ、はい、なんですか?」 少し休憩なさっては――という雪さんの誘いに応じて食堂に来てみたものの、彼女は、ずっとこんな調子だった。 透矢「ねえ、さっきからおかしいよ。気になることでもあるの?」 朝の帽子のことにしても――という言葉はどうにか飲みこんだものの、やっぱり、あの件もふくめて、妙は妙だった。 雪「大丈夫ですよ。ただ、ちょっと、ぼうっとしてしまって」 透矢「熱があるとか。計ってみた?」 雪「いいえ、ご心配なさらずに。体調は悪くありませんから」 そう言って笑う雪さんは、確かにいつもと変わらない様子なのだけど、十秒もすると、また、 雪「…」 どこを見ているのか、淀んだ目をしてだまりこんでしまう。 透矢「もういいから、今日は休んでてよ」 雪さんは、困ったように笑って、 雪「いちどだけしか言いませんから、しっかりと聞いてくださいね」 透矢「? うん」 雪「雪、月にいちどくらいは、こういうことがあるんですよ。ですけど、何日かすれば治ってしまいますし、ええと、だからですね、あまり、気にしていただくことは…」 最後のほうは、聞きとれないくらい小さな声で、僕はようやく一つの可能性に思い当たることができた。 雪さんは、女の子だもんな―― 僕は、自分でもわかるくらい派手に赤面して、黙りこむことになった。 休憩を終えて部屋に戻ると、時刻は四時半を回ろうかというところだった。 花梨との約束までには、まだ間がある。 なのに、僕はどうも落ちつかない気持ちでいた。 『七月七日 午後五時 公園で待っていま す』 差出人もわからない手紙。 すでに済んだことならいい。 でも、最近もらったものだったら? 手紙の内容を考えると、わかっていながら無視してしまうのは、気が引けた。 (だけど、ただ公園って書かれてもなぁ) 詳しい公園の名前が書いていないのは、それで通じると判断したからなのか、単に書き忘れただけなのか。 もっとも、僕が知っている公園なんて、きのう案内された一カ所しかないんだから選択の余地なんてないけど。 結局、この手紙に対して僕ができることというと、きのうの公園に行ってみることくらいしかないようだ。 《公園に行ってみる》 《公園に行かない》