Real Imouto ga Iru:shiori-0507

From TLWiki
Jump to: navigation, search
# ? Char Text
1 1JA 「……今日は、麻衣と女性専用車両に乗る」
1 1EN Shiori
2 1JA 「あ、そうだね。女の子ふたりだし、そっちのほうが安心か」
2 1EN Ryou
3 1JA 「…………」
3 1EN Shiori
4 1JA 朝から気分は最悪だった。
4 1EN
5 1JA 尿検査の最中、トイレのドアをお兄ちゃんに開けられて。
5 1EN
6 1JA ……ああ、もうこれ以上は思い出したくない。
6 1EN
7 1JA ドアにカギをかけてなかったわたしが悪いんだけど。
7 1EN
8 1JA はぁ、きっとおしっこの音も聴かれたよね。
8 1EN
9 1JA 「麻衣、早く行くよ」
9 1EN Shiori
10 1JA 麻衣 「あ、はいっ」
10 1EN Mai
11 1JA 「ふたりとも、また向こうの駅でね」
11 1EN Ryou
12 1JA お兄ちゃんはいつも、満員電車の中でわたしの体が他の人と触れないように守ってくれてた。
12 1EN
13 1JA でも今日から麻衣が一緒だし、女性専用車両を使うしかない。
13 1EN
14 1JA お兄ちゃんの性格だと、わたしだけじゃなく麻衣のことも無理をして守ろうとするだろうから……。
14 1EN
15 1JA 「降りたら改札口のところにいるからさ」
15 1EN Ryou
16 1JA 「ご自由に」
16 1EN Shiori
17 1JA 麻衣 「お兄ちゃん、いってきます♪」
17 1EN Mai
18 1JA 「俺も、いってきます」
18 1EN Ryou
19 1JA わたしはお兄ちゃんを置いて、先にひとりで歩いていく。
19 1EN
20 1JA 後ろから麻衣の明るい声が聞こえてきた。
20 1EN
21 1JA ……きっとお兄ちゃんも、麻衣みたいに素直な子が可愛いんだと思う。
21 1EN
22 1JA ふたりの会話をそばで聞いていると、いつも疎外感を覚えた。
22 1EN
23 1JA 「じゃあ、麻衣ちゃんのことをよろしく頼むよ」
23 1EN Ryou
24 1JA 「……気持ち悪いからもう行く」
24 1EN Shiori
25 1JA 久しぶりに女性専用車両に乗ってみたけど、やっぱり女だけの車内には慣れない。
25 1EN
26 1JA 昔から香水の匂いとかが苦手だったんだよね。
26 1EN
27 1JA 本当は女の子なんだし、そういうのにも普通は興味を持つ年頃なんだろうけど……。
27 1EN
28 1JA 「これは、栞のことを麻衣ちゃんにお願いしたほうがいいかな」
28 1EN Ryou
29 1JA 麻衣 「うん、栞さんのことは任せておいて」
29 1EN Mai
30 1JA 麻衣 「お兄ちゃん、またあとでねっ」
30 1EN Mai
31 1JA そんなふたりのやりとりが、また背後から聞こえた。
31 1EN
32 1JA 自然と早足になる。
32 1EN
33 1JA すると麻衣は、同じように急いでわたしの横に体を並べてきた。
33 1EN
34 1JA 麻衣 「栞さん、大丈夫ですか?」
34 1EN Mai
35 1JA 「うん。麻衣は満員電車、平気だった?」
35 1EN Shiori
36 1JA 麻衣 「はい。電車通学に憧れてたので、すごく楽しいです」
36 1EN Mai
37 1JA 「部活で疲れてると、面倒になるけどね」
37 1EN Shiori
38 1JA 「快速に乗り遅れると、他の駅にも止まって時間がかかっちゃうし……」
38 1EN Shiori
39 1JA 麻衣 「近くに他の学園はなかったんですか?」
39 1EN Mai
40 1JA 「あるよ」
40 1EN Shiori
41 1JA 勉強のレベルで言うと、うちの学園は高いほうにある。
41 1EN
42 1JA だからここへ入学するのに勉強もがんばったし、今だって授業の内容についていくのは大変だった。
42 1EN
43 1JA 「でも、近くにあるところは通ってもつまらなそうだったから」
43 1EN Shiori
44 1JA 麻衣 「そうなんですか。麻衣もこの学園、大好きですっ」
44 1EN Mai
45 1JA 「……ていうか、お兄ちゃんがいるから転校してきたんでしょ?」
45 1EN Shiori
46 1JA 麻衣 「あ、えっと……はい……」
46 1EN Mai
47 1JA 本当に一途で可愛い子だと思う。
47 1EN
48 1JA 最初はゲームの登場キャラなんてって思ってたけど、話してみると同調できることも多かった。
48 1EN
49 1JA 何より、お兄ちゃんのことを一番に思ってくれている。
49 1EN
50 1JA わたしは、お兄ちゃんのことを褒めてくれる人ができて嬉しかった。
50 1EN
51 1JA ……わたしのせいで、お兄ちゃんは親にさえ褒められることはなくなってしまったから。
51 1EN
52 1JA 「麻衣は本当にお兄ちゃんのことが大好きなんだね」
52 1EN Shiori
53 1JA 麻衣 「……はい。優しくて、話してると安心するんです」
53 1EN Mai
54 1JA 麻衣 「なんだか、すごく甘えたくなっちゃいますよね」
54 1EN Mai
55 1JA 「…………」
55 1EN Shiori
56 1JA わたしは微笑みだけを返す。
56 1EN
57 1JA 麻衣の気持ちは誰よりも理解できた。
57 1EN
58 1JA でもわたしは、あの日から甘えることが許されなくなった。
58 1EN
59 1JA 「……優しすぎて」
59 1EN Shiori
60 1JA 麻衣 「えっ?」
60 1EN Mai
61 1JA 「あ、ううん。なんでもない」
61 1EN Shiori
62 1JA 今度は作り笑いを返して、麻衣の手を握る。
62 1EN
63 1JA 「麻衣は今のまま変わらないでね」
63 1EN Shiori
64 1JA 麻衣 「……?」
64 1EN Mai
65 1JA 「お兄ちゃんを大好きな麻衣のままでいてってこと」
65 1EN Shiori
66 1JA 麻衣 「栞さん……」
66 1EN Mai
67 1JA それは、わたしにはできなかったこと。
67 1EN
68 1JA あの人と、家族として一緒に過ごしてきた時間はわたしを変えた。
68 1EN
69 1JA その時間を戻すことはできない。
69 1EN
70 1JA 「……古賀先輩?」
70 1EN Shiori
71 1JA この日もお兄ちゃんは、わたしを駅まで迎えにきてくれた。
71 1EN
72 1JA でも、あまりに意外なことを言うものだから、首を傾げずにはいられなかった。
72 1EN
73 1JA 「うん。どんな人なのかなぁと思ってさ」
73 1EN Ryou
74 1JA 「男子バスケット部だよね、あの人?」
74 1EN Ryou
75 1JA 「そうだけど……話したこともないし、知らない」
75 1EN Shiori
76 1JA お兄ちゃんが、部活のことを訊いてくるのは珍しい。
76 1EN
77 1JA しかも、男子バスケ部の古賀先輩のことなんて。
77 1EN
78 1JA 「どうしてそんなことを聞くの?」
78 1EN Shiori
79 1JA 「ああ、大したことじゃないんだけどさ」
79 1EN Ryou
80 1JA 「…………」
80 1EN Shiori
81 1JA 何かトラブルでもあったのかもしれない。
81 1EN
82 1JA 噂では、かなり気難しい人だって聞いた。
82 1EN
83 1JA 特に、練習をいい加減にしている女子バスケ部に対してはよく文句を言いにくるらしい。
83 1EN
84 1JA ……でもほんの少し、あの先輩が怒る気持ちもわかる。
84 1EN
85 1JA うちの部はいい加減で、試合に本気で勝つような雰囲気じゃなかった。
85 1EN
86 1JA わたしはそんな空気に馴染めなくて、最近はひとりで練習することも多い。
86 1EN
87 1JA 「たぶん、お兄ちゃんとは合わない人なんじゃない?」
87 1EN Shiori
88 1JA 「雰囲気がそんな感じするし」
88 1EN Shiori
89 1JA 「うん、それは俺も感じてた」
89 1EN Ryou
90 1JA 「あ、余計な話をしてごめん。帰ろうか」
90 1EN Ryou
91 1JA 「…………」
91 1EN Shiori
92 1JA 噂話だけでも、お兄ちゃんとは合わないな……と思った。
92 1EN
93 1JA 争いごとが嫌いな人だし、素直じゃないわたしのことも気遣ってくれる。
93 1EN
94 1JA そんなお兄ちゃんの優しさが、最近のわたしには重かった。
94 1EN
95 1JA 「……お兄ちゃんさ」
95 1EN Shiori
96 1JA 「うん?」
96 1EN Ryou
97 1JA こんな風にふたりで歩ける機会も、もうそんなにない。
97 1EN
98 1JA お母さんたちが離婚をして離ればなれになったら、同じ家で生活することもできなくなる。
98 1EN
99 1JA そういう生活に慣れることができるかもわからない。
99 1EN
100 1JA だからわたしは、今のうちにその『予防』をしておくことにした。
100 1EN
101 1JA 「もう駅まで迎えにこなくていいよ」
101 1EN Shiori
102 1JA 「わたしだって、もう子供じゃないし」
102 1EN Shiori
103 1JA 「帰りに友達と遊びたいときだってあるんだから……」
103 1EN Shiori
104 1JA 美紀も門限があるし、他にそんな遊び友達はいない。
104 1EN
105 1JA でも、こうでも言わないとお兄ちゃんはわたしから離れてくれない。
105 1EN
106 1JA 「だからお兄ちゃんも、時間は自分のために使いなよ」
106 1EN Shiori
107 1JA 「…………」
107 1EN Ryou
108 1JA お兄ちゃんの悲しそうな顔を見ていたら、涙が出そうになった。
108 1EN
109 1JA こんな妹でも、お兄ちゃんはいつも心配してくれる。
109 1EN
110 1JA わたしはこの人が守ってくれたから、今日まで生きてこられた。
110 1EN
111 1JA それは誇張でもなんでもない。
111 1EN
112 1JA 「今まで迎えにきてくれてありがと」
112 1EN Shiori
113 1JA ……離婚が決まって、お兄ちゃんと別れるとき。
113 1EN
114 1JA わたしは面と向かって言える自信がなかった。
114 1EN
115 1JA だから気づいたときに『ありがとう』を伝えたかった。
115 1EN
116 1JA 兄妹だから一緒にいるのが当たり前だと思っていた日々。
116 1EN
117 1JA 来年の今頃、わたしはどうしているんだろう。
117 1EN
118 1JA わたしたち兄妹は、どうなってしまっているんだろう……。
118 1EN