Real Imouto ga Iru:shiori-0508

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1 1JA 週の終わりの土曜日。
1 1EN
2 1JA この日のHRは、来週の土曜日に行われる球技会の出場種目を決める時間に当てられた。
2 1EN
3 1JA 美紀 「栞はバスケかぁ。あたしはどうしよっかなぁ」
3 1EN Miki
4 1JA 「麻衣もバスケに出るみたいだし、美紀もそうしたら?」
4 1EN Shiori
5 1JA 美紀 「どっちかというと、サボってもバレないようなのがいいのよね」
5 1EN Miki
6 1JA 美紀 「バスケだと五人だから、そういうわけにもいかないじゃない?」
6 1EN Miki
7 1JA 美紀は体育の時間も、見学することが多い。
7 1EN
8 1JA 毎回、それっぽい見学理由を考えてきているのには呆れるを通り越して感心してしまう。
8 1EN
9 1JA 美紀 「う~ん。涼先輩は、何に出るのかな」
9 1EN Miki
10 1JA 「どうして、うちのお兄ちゃんが出てくるの?」
10 1EN Shiori
11 1JA 美紀 「ファンだからよん♪」
11 1EN Miki
12 1JA 「…………」
12 1EN Shiori
13 1JA 美紀 「ほら、またそうやって怖い顔する~」
13 1EN Miki
14 1JA 完全にわたしをからかって、面白がっている。
14 1EN
15 1JA ……でもお兄ちゃんは、何に出るんだろう。
15 1EN
16 1JA 運動神経はいいほうだと思うし、なんでもソツなくこなしそうな気がする。
16 1EN
17 1JA 麻衣 「栞さん、麻衣もバスケに決めました」
17 1EN Mai
18 1JA 「あ、そうなんだ。なら一緒にがんばろうね」
18 1EN Shiori
19 1JA 麻衣 「はいっ。あの、今度よければバスケットを教えてもらえますか?」
19 1EN Mai
20 1JA 「ずいぶん、やる気あるんだね」
20 1EN Shiori
21 1JA 麻衣 「……ようやくお兄ちゃんと、こっちの世界で思い出が作れそうなので」
21 1EN Mai
22 1JA 「あ……」
22 1EN Shiori
23 1JA 麻衣 「こういう行事を大切にしたいんです」
23 1EN Mai
24 1JA 「……そっか。じゃあ、がんばってお兄ちゃんにいいところを見せないとね」
24 1EN Shiori
25 1JA 麻衣 「はいっ♪」
25 1EN Mai
26 1JA 麻衣の一生懸命さを見ていると、自分も負けられないって思う。
26 1EN
27 1JA 麻衣 「お兄ちゃんは何に出るのかな……」
27 1EN Mai
28 1JA 「同じバスケだったらいいね」
28 1EN Shiori
29 1JA 麻衣 「そしたら一緒に練習もできますね」
29 1EN Mai
30 1JA 「…………」
30 1EN Shiori
31 1JA 子供の頃、お兄ちゃんにはよくバスケの練習に付き合ってもらっていた。
31 1EN
32 1JA わたしは負けず嫌いで、いつも本気でお兄ちゃんに勝負を挑んでいた。
32 1EN
33 1JA でも、麻衣ならきっと可愛く甘えながら教えてもらうんだろうなって思う。
33 1EN
34 1JA 「お兄ちゃんとの思い出、たくさん作れるといいね」
34 1EN Shiori
35 1JA 麻衣 「でも、妹への道は遠いです。まだお兄ちゃんのことも、知らないことが多いので……」
35 1EN Mai
36 1JA 「わからないことがあったら、わたしに訊きなよ」
36 1EN Shiori
37 1JA 麻衣 「いいんですか?」
37 1EN Mai
38 1JA 「これでも一応、長い間あの人の妹をやってるしね」
38 1EN Shiori
39 1JA 自分しか知らない、あの人のこと。
39 1EN
40 1JA 最初、それを話すのには抵抗があった。
40 1EN
41 1JA だけど同じ妹として、この子の気持ちはわかる。
41 1EN
42 1JA お兄ちゃんのために何かをしてあげたいって思ってくれている。
42 1EN
43 1JA 「そうだ、お兄ちゃんの好きな食べ物とかも教えておかないとね」
43 1EN Shiori
44 1JA 麻衣 「あ、実は私も気になってたんです」
44 1EN Mai
45 1JA 「えっと、そうね……じゃあ、今日の晩ご飯をお願いしてもいい?」
45 1EN Shiori
46 1JA 麻衣 「私が作ってもいいんですか?」
46 1EN Mai
47 1JA 「もちろんよ。おかずはハンバーグでよろしくね」
47 1EN Shiori
48 1JA 麻衣 「ハンバーグ……」
48 1EN Mai
49 1JA 「作り方はわかるでしょ? お兄ちゃん、昔からおっきいハンバーグが好きなのよね」
49 1EN Shiori
50 1JA 麻衣 「そうなんですか。わかりましたっ、がんばって作りますっ」
50 1EN Mai
51 1JA どこまでも真っ直ぐで、人を疑うことも知らない女の子。
51 1EN
52 1JA どうやったら、こんな風に綺麗でいられるんだろう。
52 1EN
53 1JA この子の心を覗くことができるなら、そうしてみたい。
53 1EN
54 1JA 『ハンバーグは好きです 神様より』
54 1EN
55 1JA 麻衣 「そんなの知らないよ」
55 1EN Mai
56 1JA 放課後、神様からの手紙はさらりとかわしておいた。
56 1EN
57 1JA 何か私って監視されてない?
57 1EN
58 1JA まさか、トイレに入ってるときとかも覗かれてるんじゃ……。
58 1EN
59 1JA 『そこまで暇じゃないよ(笑) 神様より』
59 1EN
60 1JA 麻衣 「……なんで(笑)がついてるの」
60 1EN Mai
61 1JA イライラっときたけど、姿も見たことがない相手に怒ってたって仕方ない。
61 1EN
62 1JA それより私は、涼さんを待ってるんだった。
62 1EN
63 1JA 「明日は休みか。何すっかなー」
63 1EN Akira
64 1JA 「まだゴールデンウィークの休みボケが抜けてないよ」
64 1EN Ryou
65 1JA 「ほんとだぜ。おまけに来週は球技会とは……」
65 1EN Akira
66 1JA 「怪我もなく無事に終わってくれればいいけどね」
66 1EN Ryou
67 1JA 麻衣 「あ……お兄ちゃん♪」
67 1EN Mai
68 1JA 涼さんの姿が見えて声をかけちゃったけど、お友達と一緒だったみたい。
68 1EN
69 1JA 「あれ、麻衣ちゃん。どうしたの、こんなところで?」
69 1EN Ryou
70 1JA 麻衣 「うん、お兄ちゃんと一緒に帰ろうと思って♪」
70 1EN Mai
71 1JA 素直に答えちゃったけど、黙ってたほうがよかったかな。
71 1EN
72 1JA 涼さん、お友達と一緒に帰りたいのかもしれないし……。
72 1EN
73 1JA 「涼、俺は先に帰るわ」
73 1EN Akira
74 1JA 「いいよ、気を使わなくても。三人で帰ろう?」
74 1EN Ryou
75 1JA 「バカ、誰がお前に気を使うか」
75 1EN Akira
76 1JA 「お前と麻衣たんがイチャついてるのを、黙って俺に見てろって言うのか、あぁん?」
76 1EN Akira
77 1JA 今にもケンカが始まりそうな雰囲気。
77 1EN
78 1JA 前から少し苦手な人だったけど、もし涼さんを悪く言うんだったら……。
78 1EN
79 1JA 「じゃあ、また来週……かな?」
79 1EN Ryou
80 1JA 「ああ。麻衣たんも、涼に愛想が尽きたら俺のところへ来ていいからな?」
80 1EN Akira
81 1JA 麻衣 「行きません」
81 1EN Mai
82 1JA 満面の笑みで私は答えた。
82 1EN
83 1JA 「笑顔で言われると傷つくわー」
83 1EN Akira
84 1JA 麻衣 「……ごめんなさい、行きません」
84 1EN Mai
85 1JA 「そんな悲しそうに、しかも二度も言わなくていいから!」
85 1EN Akira
86 1JA 「はぁ、俺も素直で可愛い妹が欲しいぜ……」
86 1EN Akira
87 1JA 素直で可愛い妹……この麻衣っていう子は、そういう風に見えてるのかな。
87 1EN
88 1JA それとも私の演技の問題?
88 1EN
89 1JA 涼さんにはどう思われてるんだろう、私……。
89 1EN
90 1JA 「それじゃあ、一緒に帰ろうか」
90 1EN Ryou
91 1JA 麻衣 「うんっ」
91 1EN Mai
92 1JA いい子だって思われてればいいな。
92 1EN
93 1JA せめてこの子でいる間は、可愛い妹でいられたら……。
93 1EN
94 1JA 「へぇ、麻衣ちゃんはバスケに出るんだ」
94 1EN Ryou
95 1JA 麻衣 「うん、栞さんも一緒だよっ。お兄ちゃんは何に出るの?」
95 1EN Mai
96 1JA 「俺もバスケだよ。すごい偶然だね」
96 1EN Ryou
97 1JA 涼さんもバスケットに出るなんて驚き。
97 1EN
98 1JA 本当にこれも偶然なのかな。
98 1EN
99 1JA ……また、神様の気まぐれとか。
99 1EN
100 1JA そんなわけないよねっ。そこまで神様も暇じゃないだろうし。
100 1EN
101 1JA 麻衣 「栞さん、すごいんだよ。クラスのみんなからバスケットに出てほしいって言われて……」
101 1EN Mai
102 1JA 「そうなんだ」
102 1EN Ryou
103 1JA 麻衣 「うんっ。栞さんが出れば、優勝まちがいなしだって♪」
103 1EN Mai
104 1JA 私には、そんな栞さんが眩しかった。
104 1EN
105 1JA 自分とは違う世界に住んでる人に見えて、憧れてしまう。
105 1EN
106 1JA 麻衣 「麻衣は運動が得意じゃないから足を引っ張っちゃうかも……」
106 1EN Mai
107 1JA 今までほとんど運動なんてできなかったし、球技会で上手くできる自信もない。
107 1EN
108 1JA それに、どんな雰囲気なのかもわからないし……。
108 1EN
109 1JA もし私が足を引っ張って、クラスの空気が悪くなったらどうしよう。
109 1EN
110 1JA 「そんなの気にしないで、クラスのみんなと楽しくやればいいよ」
110 1EN Ryou
111 1JA 「球技会って、そういうものだと思うしね」
111 1EN Ryou
112 1JA 涼さんは私の不安を見透かしたかのように言ってくれる。
112 1EN
113 1JA いつものように優しく笑ってくれて、私もそれに釣られてしまった。
113 1EN
114 1JA 麻衣 「でも、お兄ちゃんにはいいところを見せたいな~」
114 1EN Mai
115 1JA そして、できれば褒めてもらいたい。
115 1EN
116 1JA がんばったねって、って言ってほしい。
116 1EN
117 1JA 病室でかけられる言葉は、いつも『がんばってね』だった。
117 1EN
118 1JA 今までだって、私なりにがんばって生きてきたつもり。
118 1EN
119 1JA でも、誰も私を褒めてはくれない。
119 1EN
120 1JA 私はどこまでがんばればいいの?
120 1EN
121 1JA いつまで生きれば、『がんばったね』って言ってもらえるの?
121 1EN
122 1JA もうあの生活には戻りたくない。
122 1EN
123 1JA 私はこの人と生きたいって、思うようになってしまっていた。
123 1EN
124 1JA 麻衣 「ねえ、お兄ちゃんの試合、応援に行ってもいい?」
124 1EN Mai
125 1JA 「いいけど、情けないところを見せるだけだよ」
125 1EN Ryou
126 1JA 涼さんは、もっと自分に自信を持ったほうがいいような気がする。
126 1EN
127 1JA いつも謙遜して、周りを立てようとするんだよね。
127 1EN
128 1JA 麻衣 「ううん。がんばってるお兄ちゃんは、情けなくなんてない」
128 1EN Mai
129 1JA 麻衣 「麻衣ね、いつもそう思ってるの」
129 1EN Mai
130 1JA 「いつも?」
130 1EN Ryou
131 1JA 私は頷いて涼さんに答える。
131 1EN
132 1JA 麻衣 「だってお兄ちゃん、栞さんのために毎日がんばってるでしょう?」
132 1EN Mai
133 1JA 「!?」
133 1EN Ryou
134 1JA 麻衣 「麻衣は本当の妹じゃないけど、そのぐらいはわかるよ」
134 1EN Mai
135 1JA 「……いつも空回りだけどね」
135 1EN Ryou
136 1JA 麻衣 「じゃあ、麻衣と一緒だね」
136 1EN Mai
137 1JA 言うつもりのなかった余計なことまで口にしてしまう。
137 1EN
138 1JA 涼さんのことをバカにしてるみたいに聞こえなかったか、心配だった。
138 1EN
139 1JA 麻衣 「麻衣も、空回りばっかりしてるもん」
139 1EN Mai
140 1JA 麻衣 「……いくらがんばったって、こっちの世界ではお兄ちゃんの本当の妹にはなれないのにね」
140 1EN Mai
141 1JA つい本音が洩れてしまう。
141 1EN
142 1JA 自分では考えないようにしていたけど。
142 1EN
143 1JA 私は、この人の妹になりたかったんだと思う。
143 1EN
144 1JA もし栞さんがいなかったら、迷いもせずお母さんの再婚に賛成していた。
144 1EN
145 1JA 麻衣 「でもね、麻衣はがんばるよ」
145 1EN Mai
146 1JA 麻衣 「本当の妹になれなくても、こうやってお兄ちゃんのそばにいるの」
146 1EN Mai
147 1JA 麻衣 「それでね、いつか麻衣ちゃんじゃなくて、麻衣って呼んでもらえたらいいなぁって」
147 1EN Mai
148 1JA 麻衣 「栞さんと同じように名前だけで呼んでもらえたらいいなぁって」
148 1EN Mai
149 1JA 麻衣 「そう思うの♪」
149 1EN Mai
150 1JA 涼さんはいつも私を『まいちゃん』って呼ぶ。
150 1EN
151 1JA 栞さんとは違って呼び捨てじゃない。
151 1EN
152 1JA 妹っていう立場で押しかけたこの子だけど、まだお客さんに思われてるんだよね。
152 1EN
153 1JA でもいつか、涼さんに『まい』って呼んでもらえるように。
153 1EN
154 1JA 私は、がんばるしかない。
154 1EN
155 1JA 「自転車がきたね」
155 1EN Ryou
156 1JA 麻衣 「あ……」
156 1EN Mai
157 1JA 歩いている途中で、涼さんがいきなり私の手を握ってきた。
157 1EN
158 1JA そして、ふたりで向かいから来た自転車をやり過ごす。
158 1EN
159 1JA 「よし、帰ろうか」
159 1EN Ryou
160 1JA 麻衣 「…………」
160 1EN Mai
161 1JA 涼さんは、つないだ私の手を放そうとしない。
161 1EN
162 1JA 私も放したくなかった。
162 1EN
163 1JA だから図々しいと思ったけど、自分からは何も言わなかった。
163 1EN
164 1JA 日に日に涼さんの存在が大きくなってきている。
164 1EN
165 1JA 今はすごく楽しい。
165 1EN
166 1JA だけど、この人と別れなくちゃいけなくなったとき……。
166 1EN
167 1JA そのとき、私は笑ってお別れできるのかな。
167 1EN
168 1JA 「歩くの速すぎてない?」
168 1EN Ryou
169 1JA 麻衣 「うん、へーきだよ。お兄ちゃん、そんなに気を使わないで?」
169 1EN Mai
170 1JA 未来のことはわからない。
170 1EN
171 1JA だから今のうちに笑っておこう。
171 1EN
172 1JA この人の前では、ずっと笑っていよう。
172 1EN
173 1JA 美紀 「うひゃー、まさかこんなに降るとはねぇ」
173 1EN Miki
174 1JA 「…………」
174 1EN Shiori
175 1JA 今日は天気予報を見なかったせいで、傘を持っていなかった。
175 1EN
176 1JA この様子だと、当分は止みそうにない。
176 1EN
177 1JA 美紀 「栞、傘ないんだよね? あたしが家まで一緒に帰ってあげよっか?」
177 1EN Miki
178 1JA 「……ううん。もう少し、お兄ちゃんが来るのを待ってみる」
178 1EN Shiori
179 1JA 美紀 「あ、そっか。いつも迎えにきてもらってるもんね」
179 1EN Miki
180 1JA 「…………」
180 1EN Shiori
181 1JA 昨日、そのお兄ちゃんに言ったばかりだ。
181 1EN
182 1JA もう迎えにこなくていいって。
182 1EN
183 1JA だから、待っていても迎えがこないのはわかっていた。
183 1EN
184 1JA 美紀 「なら、あたしは先に帰るけど……本当に平気?」
184 1EN Miki
185 1JA 「うん。お兄さんが心配するから、美紀も早く帰ったほうがいいよ」
185 1EN Shiori
186 1JA 美紀 「兄貴はどうでもいいけど、今日は観たいテレビがあったんだよね」
186 1EN Miki
187 1JA 美紀 「一緒に待ってあげられなくてごめん。また来週ねっ」
187 1EN Miki
188 1JA 「うん、またね」
188 1EN Shiori
189 1JA そうして駅から駆け出す美紀を静かに見守る。
189 1EN
190 1JA その間にお兄ちゃんからケータイに電話があったけれど、わたしは出なかった。
190 1EN
191 1JA きっと、あの人はわたしのことを心配してくれている。
191 1EN
192 1JA それに甘えるだけの生活は、終わりにしたかった。
192 1EN
193 1JA わたしが立ち止まっている間も、周りの風景は流れていく。
193 1EN
194 1JA 雨は、降り止まない。
194 1EN
195 1JA 「…………」
195 1EN Shiori
196 1JA ひとりになって、思い出すのはお兄ちゃんとの思い出ばかりだった。
196 1EN
197 1JA 子供の頃、一緒に遊んだこと。
197 1EN
198 1JA そして、遊びたいのに遊べなくなったこと。
198 1EN
199 1JA わたしのせいだった。
199 1EN
200 1JA わたしのせいで、お兄ちゃんは色々な人に傷つけられた。
200 1EN
201 1JA そのときもわたしは、あの人に守られるだけだった。
201 1EN
202 1JA 「栞!」
202 1EN Ryou
203 1JA 「!?」
203 1EN Shiori
204 1JA ……今も変わらない。
204 1EN
205 1JA わたしがいくらこの人から離れようとしても、どんなに可愛くない妹を演じても……。
205 1EN
206 1JA 「傘、持ってきたから一緒に帰ろう?」
206 1EN Ryou
207 1JA 「…………」
207 1EN Shiori
208 1JA 「駅に着いたら電話してくれればよかったのにさ」
208 1EN Ryou
209 1JA この人は、いつだってわたしを守ってくれる。
209 1EN
210 1JA お兄ちゃんの足下を見たら、びしょ濡れになっていた。
210 1EN
211 1JA 雨の中、走ってきてくれたに違いない。
211 1EN
212 1JA 「……迎えにこなくていいって言ったでしょ」
212 1EN Shiori
213 1JA 「でも、帰りが遅かったから心配で……」
213 1EN Ryou
214 1JA 「急に雨が降ってきたから、止むのを待ってただけ」
214 1EN Shiori
215 1JA 話の途中で、泣きそうになった。
215 1EN
216 1JA 本当は子供の頃みたいに、ただこの人に甘えていたかった。
216 1EN
217 1JA 「とりあえず、家に帰ろう?」
217 1EN Ryou
218 1JA 「気温も下がってきたし、風邪をひいたら大変だよ」
218 1EN Ryou
219 1JA 「…………」
219 1EN Shiori
220 1JA 「一緒に帰るのが嫌なら、せめて傘だけでも……」
220 1EN Ryou
221 1JA 「いらない」
221 1EN Shiori
222 1JA 「この様子じゃ、当分は雨も止まないよ」
222 1EN Ryou
223 1JA 「止むまで待ってる」
223 1EN Shiori
224 1JA 「栞っ」
224 1EN Ryou
225 1JA 「どうして子供みたいに、いつまでもわたしにかまうの?」
225 1EN Shiori
226 1JA 「もう、わたしのことは放っておいてっ」
226 1EN Shiori
227 1JA 泣くのを我慢するのも限界になって、わたしは走り出していた。
227 1EN
228 1JA 胸が痛い。
228 1EN
229 1JA 心の中で、何度もお兄ちゃんに謝り続ける。
229 1EN
230 1JA 雨で濡れると、涙を我慢する必要はなくなった。
230 1EN
231 1JA お兄ちゃんはわたしのあとを追って、自分も傘を差さずについてきてくれた。
231 1EN
232 1JA わたしのお兄ちゃんは、そんな人だ。
232 1EN
233 1JA そしてわたしは、そんなお兄ちゃんを傷つけるだけの存在だった。
233 1EN
234 1JA 麻衣 「……雨、まだ止んでないんだ」
234 1EN Mai
235 1JA 雨の中、涼さんが栞さんを迎えにいってずいぶん経つ。
235 1EN
236 1JA 栞さんに教えてもらった通り、今日の晩ご飯はハンバーグにした。
236 1EN
237 1JA それを見せようと思ったけど、涼さんは急いで家を出ていってしまった。
237 1EN
238 1JA 麻衣 「お兄ちゃん、大丈夫かな……」
238 1EN Mai
239 1JA 外の雨は強まっている。
239 1EN
240 1JA ひとりで家にいると、その音が耳障りなぐらい大きく聞こえた。
240 1EN
241 1JA 麻衣 「…………」
241 1EN Mai
242 1JA どうしたんだろう、私は。
242 1EN
243 1JA 胸の奥、肺とは違うどこかが苦しい。
243 1EN
244 1JA こんなこと、今まで一度もなかったのに……。
244 1EN
245 1JA 麻衣 「まさか、また病気なの……?」
245 1EN Mai
246 1JA 真っ先にそれを疑ってみたけど、何か違う気がする。
246 1EN
247 1JA さっきから、考えていることは涼さんのことばかりだった。
247 1EN
248 1JA 麻衣 「お兄ちゃん、美味しいって言ってくれるといいな」
248 1EN Mai
249 1JA 麻衣 「今度は、栞さんも喜んでくれるといいな……」
249 1EN Mai
250 1JA 自分の作った料理を見て、まだまだだなって思う。
250 1EN
251 1JA だけど、誰かのために何かをしてあげられるのは幸せだった。
251 1EN
252 1JA いつも心配されるだけだった私が、そばにいる大切な人を笑顔にできる。
252 1EN
253 1JA それは昔の生活では考えられないことだった。
253 1EN
254 1JA 麻衣 「……お兄ちゃん」
254 1EN Mai
255 1JA 早く涼さんの顔が見たい。あの人の声が聞きたい。
255 1EN
256 1JA 私はそれを、『妹』としての感情だと思いこんでいた……。
256 1EN